靴をぬぐ文化が実は重要だった?ーコロナウイルス感染症

コロナウイルス感染において日本の死亡率は誇れるものだと考えています。しかしなぜこのような結果になっているのか? 現在のウイルス型とは異なるものの感染が早期に蔓延したからなど諸説がありますが、明確な説明ができない状態です。

当院にいる原口医師が、靴を脱ぐ習慣と、各国の死亡率について調査、考察しましたのでご紹介します。

 

「新型コロナウイルスと室内で靴を脱ぐ習慣」 原口美穂子

新型コロナウイルスに対する緊急事態宣言が4月7日に発令されてから6週間がたちました。4月中旬は日本全国で1日500人以上の新規感染者(PCR検査陽性者)が報告されていましたが、ゴールデンウィークが明けてからは日本全国の新規感染者数は1日あたり100人未満となり、徐々に減ってきています。一方海外を見ると、1日当たりの新規感染者数は5月17日現在アメリカで2万人、ブラジルで1万5千人、ロシアで1万人と、まだまだ多い状況です。
新型コロナウイルスの感染拡大を抑えこむため、世界中で外出規制が行われ、人と人との間隔を開ける対策が取られています。また、感染対策として、世界中にマスク着用が広がっています。4月上旬にアメリカ疾病管理予防センター、世界保健機関がそれぞれマスク着用を推奨する発表をしました。新型コロナウイルス流行まで欧米ではインフルエンザの流行期でもマスクを着用する人は少数でしたが、わずか3ヶ月で状況は変わり、今ではフランス、ドイツ、イタリア、チェコ、オーストリア、スロバキアなど多くの国で外出時のマスク着用が義務化されています。
新型コロナウイルスの感染経路は飛沫感染と接触感染であるとされています。飛沫感染とは、感染者のつば、くしゃみ、咳と一緒にウイルスが放出され、他の人がそのウイルスを口や鼻から吸い込んで感染することです。接触感染とは、感染者がくしゃみや咳を手で押さえた後にその手で周りの物に触れてウイルスがつき、他の人が同じ物を触った後、手で口や鼻を触ることによって粘膜から感染する経路です。物の表面についた新型コロナウイルスが感染力をなくすまでの時間は、紙類で3時間、木材と布で2日、ガラスで4日、ステンレスとプラスチックで7日だったという報告があります(Alex W H Chin et al: Stability of SARS-CoV-2 in differentenvironmental conditions. The LANCET Microbe Vol 1(1) E10,May 01, 2020)

ここで私が気になったのが、室内で靴を脱ぐ文化です。日本の多くの家では外から帰ると玄関で靴を脱ぎますが、海外には、玄関に靴箱がなく、室内でも靴を履いて生活する家が多くあります。室内で靴を履く国、脱ぐ国で、新型コロナウイルス死亡者数に傾向はあるのでしょうか?そこで、人口100万人以上の国について、新型コロナウイルスによる人口あたりの死者数が多い国から順に、室内で靴を履くか脱ぐかで色分けしてみました。西欧諸国は室内で靴を履き、東欧諸国は室内で靴を脱ぐ傾向があるようです。そのことと関連があるかどうかは不明ですが、新型コロナウイルスによる人口あたりの死者数も、西欧諸国より、東欧諸国の方が少ない傾向があります。また、人口あたりの死者数の多い10カ国のうち、9カ国は室内で靴を履く国です。また、フランスとドイツ、イタリアとオーストリアはそれぞれ隣り合う国ですが、人口100万人あたりの死者数はフランスが411人に対してドイツ95人、イタリア521人に対してオーストリア71人と大きな差が見られます。ただし、この表で「室内で靴を履く」に分類した国の中でも、家庭によっては室内で靴を脱いだり、室内履きに履き替える場合もあるようなので、この表のみからあまり強いことはいえません。中国・武漢の新型コロナウイルス専門病院での調査では、医療従事者の靴底からコロナウイルスが検出されたとの報告がありますが(Zhen-Dong Guo et al: Aerosol and Surface Distribution of Severe Acute Respiratory Syndrome Coronavirus 2 in Hospital Wards, Wuhan, China, 2020. Emerging infectious diseases. 26(7), 2020)、一般の方が室内で靴を脱ぐ文化が新型コロナウイルス流行に影響するかどうかについての学術論文は見当たりませんでした。

参考サイト ジョンズホプキンス大学 外務省  ウィキメディア Tradition of removing shoes in home

 日本では5月4日に専門家会議から新しい生活習慣として「対面打ち合わせ時にはマスク着用、換気」「こまめな手洗いや消毒」「人との間隔は2m開ける」などが提言されました。新しい生活習慣となった社会に受け入れられる場所であるために、当院でも、スタッフ全員がマスクやフェイスシールドを着用し、頻繁に換気し、30分ごとに手で触れる場所をすべてアルコール消毒し、出来るだけ患者さんどうしの間隔をあけ、院内滞在時間を少なくするなど、できる限りの対策を行っています。

100年前、世界的にスペイン風邪(インフルエンザ)が流行した時は、第1波が収束した後、1年後に第2波の大きな流行、2年後に第3波の小さな流行がありました。新型コロナウイルスの流行が今後どうなるかまだ分かりませんが、日本だけでなく世界の状況を見ながら、コロナ後の世界を乗り切っていきたいものです。

2020年05月21日