捨て去られる治療
歯性上顎洞炎という病気がある。抜歯した後にその穴から上顎洞に感染を起こしてしまい、口の中に膿がいつまでも流れ込むちょっとやっかいな病気である。
要はその開いた穴が塞がればあとは抗生物質で料理できる状況になるわけである。穴は感染が収まれば塞がってくるのであるから抗生物質を初めから使えば良いではないか、ということを言う人もいるかもしれない。しかしすでに膿がたまっている状況ではなかなか抗生物質が効かないことは容易に予想できる。
とにかく綺麗にする。でも抗生物質は有効性に欠ける予想である。そこで何を選択すべきか。まずはじめに口の中の穴から水を入れて洗えないか、と考えてみた。昔、病棟の患者さんにやった方法である。穴が大きくないと洗えないけれど、穴が大きいと塞がらない。結局、そのときには穴を塞ぐ手術を選択したわけだが、今回は口から洗えるような穴は見当たらなかった。小さい穴なのだろう。
で、仕方がないので、鼻の中から洗浄する方法を選択した。シュミット探膿針による副鼻腔洗浄である。なんで「仕方がない」なのか?と思われる人もいるかもしれないが、準備が面倒で時間がかかるので気持ちとしては「仕方がない」になってしまうのである。患者さんも大変だ。鼻から針で刺されて一瞬とは言えやや痛い処置である。でも存分に膿が出てさぞかしさっぱりした状態で帰宅しただろうと思う。
何軒か耳鼻科を経由したようだが、どこも上顎洞洗浄を選択しなかったようだ。でもこの場合、やはり選択肢の上位に挙がるべき処置のように思う。昔の処置だから捨て去られる運命にあるのか、あるいは面倒だからみんな避けているのか、はたまたリスクがあるのにあまり点数がつかないから嫌気がさすのか。大切にしたい古い治療がどんどん忘れ去られている昨今だが、ハイテクばかりが能ではないということでも改めてこの古臭い処置を通じて強く感じさせられた。
2005年06月16日